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再び手術に挑む“ガラスのエース” 斉藤和巳の止まってしまった時間―
2010年02月18日 (木) | 編集 |
                 田口元義 = 文  


 見たい選手が見られないのは残念だ。

アリゾナでの自主トレの模様がテレビに映し出された際の彼の表情は明るく、
「今年こそは」と安心させるものがあった。

春季キャンプでは、二軍選手中心のB組でのスタート予定とはいえ、
久々にユニフォーム姿が見られると期待を募らせた。

復活を誓っていたソフトバンクの斉藤和巳が
右肩腱板修復手術に踏み切ることが報道されたのは、
キャンプ直前の1月31日のことだった。

右肩の状態はまだ深刻だったのだ。

~エースなのに2年以上も実戦登板が無いという屈辱~

「いくらトレーニングに励んでも(右肩の)
 状態が上向かないもどかしさは想像を絶するものでした」―。

これは球団広報を通じての斉藤のコメントだが、
他者を介したものでも、十分すぎるほど言葉に重みが感じられた。
'08年1月に右肩関節唇修復手術を受けて以来、
2年以上も実戦登板から遠ざかっているどころか、
まともに投球ができずにいる。
チームの大黒柱、絶対的なエースと呼ばれる斉藤にとって、
これほど苦しいことはないだろう。

 その心情は、同じく31日のブログに切々と綴られている。

<「投げたい」という気持ちが、少しも変わってない事を再確認し、
  可能性が高くない事は自分でも分かっていますが、先を考えると、
  凄く険しい事もわかった中で、
  もう一度そこに立ち向かおうと、決心しました>

投手にとって利き腕の故障は致命的だが、
なかでも肩は選手生命をも左右する重大な箇所。
多くの時間を費やし丹念にリハビリを続けても、
全盛期のボールが投げられる保証はどこにもない。

これまで、そんな選手を何人も見てきた。
特にあのふたりは……
現在の斉藤のように実績と怪我がクローズアップされた選手だった。


~今中慎二、川崎憲次郎はついに完治することなく消えた~

 ひとりは元中日の今中慎二。

17勝を挙げた'93年から4年連続で2ケタ勝利をマーク。
150キロ近くの速球と100キロ前後のスローカーブを武器とした
天才投手だったが、
'97年の自主トレ中に左肩に違和感を訴え手術を決断。
以後、故障と戦い続けたが完治することなく'01年に引退。

 もうひとりは川崎憲次郎。

ヤクルトでエースだった男も、
'01年に中日へ移籍してからは右肩の痛みに苦しんだ。
チームではエースを意味する背番号20を与えられながらも、
3年間で一軍登板はゼロ。
04年に開幕投手を務めたが往年の球威を取り戻せず、
同年に現役を退いた。


~ 不安や苛立ち焦燥感……プロとしての地獄の苦しみが続く~

ふたりは投手の最高の栄誉である沢村賞に輝くなど
チームの柱的存在でありながら、
故障期間が長かったため通算勝利が100勝に達していない。
これらは悲しいことに、今の斉藤と共通する部分でもある。

 つまり、「ガラスのエース」ということ。

言葉の響きはいい。
「滅びの美学」にも似た儚さがある。
何より他者は、これを「伝説」とし美化することを好む。
すでに引退している今中や川崎なら、
今となってはそれを過去のものとして受け入れるかもしれない。
ただ、未だ現役に強いこだわりを持つ斉藤からすれば、
嬉しくも何ともない称号であることは間違いない。

完治する、往年のボールが投げられる確証が持てないまま
生活をする苦しみは本人にしか分からないものだ。
不安や苛立ち焦燥感。
もしかしたら、諦めそうになる日だってあるかもしれない。
だが、それでも、と自分を奮い立たせるのもプロの仕事である。

<可能性が無くなった訳でないのに背をむける事は、
 自分の中では出来ません>

1月31日のブログで本人もファンに強く訴えかけている通り、
可能性はゼロではないのだ。

~斉藤和巳という選手を信じ、そして最後まで見届けたい~

だからこそ、斉藤和巳という投手を信じてみたくなる。
というより我々は、
斉藤和巳という投手を最後まで見届けなければならない。

まだ、斉藤和巳の時間は止まったままだ。
止まっているのだから焦る必要はない。
再び時計の針が動き出す、
一軍のマウンドに上がる日が来るまで、
じっくりと右肩と会話をすればいいのだと思う。


【筆者プロフィール 田口元義氏】

1977年福島県生まれ。
元高校球児(3年間補欠)。
ライフスタイル誌の編集を経て2003年にフリーとなる。
Numberほか雑誌を中心に活動。
試合やインタビューを通じてアスリートの魂(ソウル)を
感じられる瞬間がたまらない。
共著に「戦力外通告 プロ野球をクビになった男たち」、
同「諦めない男たち」などがある。
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