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蘇った「7番=お掃除屋」論
2010年01月05日 (火) | 編集 |
              鷲田康 = 文  


7番打者の役割とは何か?

一つの答えを見せてくれたのが、日本一に輝いた
巨人の7番打者・阿部慎之助捕手ではなかっただろうか。

「例えば僕が、ワンアウトからシングルヒットを打って
 一塁にランナーで出ても、ベンチは鬱陶しいでしょう」

 阿部はいたずらっぽくこう語る。

「足が速いわけでもないし、後は8番、9番。
 もちろんシチュエーションにもよるんですけど、
 ベンチが僕にシングルヒットじゃなくて、
 二塁打を打って欲しいだろうなあってことはよくあります」

 確かにそうだ。

阿部が一塁に出ても盗塁があるわけではない。
8番打者が送りバントをしても次は9番。
7番という打順の難しさはそこにある。

~セ・リーグトップの長打率が示す7番打者・阿部の特異性~

「だから……」

 阿部は続けた。

「今年はバッティングを意識的に変えました。
 意識して長打を狙って打席に入るケースを増やしました」

'09年シーズンの阿部の打率は2割9分3厘と3割には届かなかった。
確率はわずかに落ちたかもしれないが、
その代わりに特筆すべき数字がある。

 長打率だった。

5割8分7厘はセ・リーグではナンバー1。
両リーグを通じても、西武・中村剛也内野手の6割5分1厘
(これは日本球界では突出した数字です!)に次ぐ2番目の高さとなる。
もちろん長打率上位の打者は、
チームでクリーンアップを打つ選手がほとんど。
その中で、7番打者のこの数字は、阿部の特異性を表すものとなっている。

~阿部は藤田元監督の“7番論”を体現する長距離打者だ~

「6番、7番打者は第2のクリーンアップだ」

こう語っていたのは亡くなった藤田元司元巨人監督だった。

'89年から4年間、指揮を執った第2次政権のときに
篠塚、原、クロマティーらで3、4、5番を組むと、
その後の6、7番に岡崎、駒田を起用。
この二人で残った走者を、きれいに返して
塁上をお掃除(クリーンアップ)させた。

「3、4、5番のヒットで点が入ると一塁に走者が残るケースが多いが、
 あまり動きようがない。
 だから6、7番には率ではなく大きいのを打てる打者がいるのがいい。
 あの打順に一発や長打のある打者がいるだけで
 相手バッテリーは神経を使うし、気持ち悪いものなんだよ」

 藤田監督は説明していた。

足のない走者を一塁に置いて、7番打者に「打たれてもシングル」と思えば、
相手バッテリーは精神的に楽になる。
打者への攻めも幅が広がる。
だが長打を警戒すれば四球も増え、塁上に走者を溜められる。
7番打者は確率は低くても、
そういう威圧感のある打者が最適ということだった。

その7番論を体現した打者が'09年の阿部慎之助だったわけだ。


~「7番には慎之助がいる」と原監督は絶大なる信頼を寄せる~

「慎之助にはクリーンアップを打てる力があるし、
 実際に今年も何試合か任せたことがある。
 ただ、捕手というポジションで打撃への負担を軽減すること。
 そして彼の勝負強さを今のチーム環境の中で
 どう生かしていくかと考えた末に、あの打順を任せた。
 僕の中では最強の7番打者だと思っている」

 という原辰徳監督は続けた。

「2010年は8番を若手の打順にしたい。
 坂本を使ったように若い選手をここに入れて
 経験を積ませる打順にできれば、もう一歩、
 先につながる打線になるはずです。
 ただ、そのオーダーが組めるかどうかは1番から7番までが、
 8番をどこまで支えられるかにかかってくる」

この構想ではもちろん7番までの打線の得点力がどれぐらい上がるかだ。
ただ、やはり8番を育てるカギは、
その前を打つ7番にかかるのは火を見るより明らかとなる。

 そう考えると――。

「7番には慎之助がいる」

指揮官の絶大な信頼こそが、
この新打線構想の核であることも間違いない。



【筆者プロフィール 鷲田康氏】

1957年埼玉県生まれ。
慶應義塾大学卒業後、報知新聞社入社。
およそ10年にわたり読売ジャイアンツ取材に携わった。
2003年に独立。
日米を問わず野球の面白さを現場から伝え続け、
Numberほか雑誌・新聞で活躍。
著書に『僕のメジャー日記 松井秀喜』(文藝春秋)、
『ホームラン術』(文春新書)がある。
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