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日々様々なスポーツ界での出来事や、気になった記事を取り上げ考えていくブログです。
我が家のルール 菊池雄星
2009年12月23日 (水) | 編集 |
夏の甲子園、敗れてもなお観衆を魅了した花巻東のエース。
150kmを超える剛速球の持ち主は、
マウンドを降りても献身的な応援で仲間を鼓舞し続けた。
大勢の報道陣に囲まれても嫌な顔ひとつせず、
丁寧な受け答えに努める。
合後には大泣きし、国内かメジャーかを迫られ、また涙を流す――。


ただひたすらにまっすぐな、純朴を絵に描いたような青年は、
みちのく岩手の地でいかにして育て上げられたのか。

 なんとも間の悪い涙だった。

「いろんな人に迷惑をかけてしまったな、っていうのがあって。
ただ、誤解を与えてしまったことは申し訳ないんですけど……」

 ~日本プロ野球か、メジャーリーグか――。~

「20年にひとりの逸材」と言われた花巻東のエース、
菊池雄星の進路に関する報道合戦が始まったのは、8月24日、
花巻東が夏の甲子園の準決勝で敗退した翌日のことだ。

みちのくの18歳は、その間、ボールを1球も投げなくとも、
何度となくスポーツ紙の1面を飾った。
そんな前代未聞といってもいい騒動に終止符が打たれたのは
2カ月後のことだった。
日米合わせて20球団との面談を終えた菊池は、
ドラフト会議を4日後に控えた10月25日、花巻東で記者会見を開いた。

「日本でプレーさせていただきたいと思います」

それが、菊池が顔中ににきびを作った末に選び出した答えだった。
菊池はたどたどしいながらもいつもの丁寧な言葉遣いで約15分間、
自分の思いを語った。
そして、すべてを語り終えたと思いきや、突然、
菊池の頬を涙が次々とつたい始めた。

 ~相手の心情に同化してしまうがゆえに菊池は涙を流す~

 見慣れた光景といえばそうだった。

春の甲子園のときも、夏の甲子園のときも、試合に敗れたあと、
菊池は堰を切ったように泣き始め、
しゃくり上げながら2リットルの
ペットボトルがいっぱいになるのではないかと思えるほどの
大量の涙を流した。

「なんか、出ちゃうんですよね。
 負けず嫌いって言ったら、それまでなんですけど」


 ~左腕から繰り出されるストレートは最速155kmを誇る~

いや、泣いてしまうのは、自分が負けたときだけではない。
母の加寿子が話す。

「小学生のとき、お兄ちゃんの野球の試合についていって、
 勝っても負けても泣いていました。
 それでお兄ちゃんでも忘れているようなことでも
 覚えてるんです」

相手の気持ちがわかるというよりも、
完全に同化してしまう。
そして、その本人以上に深く感じ入ってしまうのだ。

 父の雄治も、証言する。

「シニアリーグの卒団式のとき、
 キャプテンの雄星が代表して3年生に贈る言葉みたいのを読んだんです。
 そうしたら、読みながら、もう、うううう……ってきてて。
 会場も、みんな、ううううううう……って」

以前も、雄治は同じ話をしていた。
よほど心に留まっているシーンなのだろう。
だがひとつ、注釈が必要だ。
後者の「うううう」のなかには、おそらく雄治も含まれていた。


 ~菊池が父から受け継いだのは恵まれた体格と溢れる涙~  

菊池がやり返す。

「小学校の卒業式のときは泣いたかもしれませんが、
 中学の卒業式のときは泣いてません。
 隣で父が泣いていたときはありましたけど。
 自分の子どもの卒業式でもないのに」

他の人に言われるのならまだしも、
父親に言われるのは納得がいかない、そんな様子だ。

「あの人こそ、すぐ泣きますよ」

身長188cmもある父から菊池が授かったものは、
大きな体だけではなかった。

菊池は会見の席であふれ出してしまった涙の根拠をこう語った。

「(メジャーの関係者に対して)遠くから足を運んでいただいたのに、
 結論が国内となって申し訳ないという思いです」

無念の涙――。
そう解釈したメディアも多かったが、ある意味、
菊池はそんなフクザツな18歳ではない。
恐らくは、メジャーを選んでいたとしても、
菊池は同じように涙したに違いない。
逆に、日本の関係者の期待を裏切ってしまった、と。

「常に、すごいって言われたいんですよね」
菊池は人を喜ばせたり驚かせたりすることが大好きな少年だった。
加寿子が思い起こす。

「私が帰ってくると、リビングとかがきれいに
 片付いていることがよくあった。
 暇だったからやっといたよって。
 ただ、大事なメモとかも捨てられてたりして……。
 でも一生懸命やってくれたのに、そんなことも言えないですしね」

実に微笑ましい。
そんなねつっこい献身ぶりは、その後も変わらなかった。
菊池が言う。

「常に、すごいって言われたいんですよね。
 だから、掃除でもピカピカにしたい。
 何か頼まれごとをしても、約束の日の2日前に終わらせるとか。
 どんなことでも、人よりも完璧にやりたいんです」

責任感とも、ちょっと違う。
ただ単に、相手の気持ちに応えたいのだ。
その思いは、菊池にとって本能と言ってもいいほどに御しがたい
感情だった。

「昔、ゲームカードとかでも、
 これ交換しようって言われたら断れなかった。
 向こうが弱いカードで、こっちが買ったばかりのレアカードであっても。
 あそこ遊びに行こうよって誘われたら、疲れてても行っちゃうし」

そんな菊池が、あの場面で、むしろ泣かないほうが不自然だった。
誠意を尽くしてくれたメジャー関係者の気持ちに応えるどころか、
失望させてしまったのだから。

その後のことまでには考えが至らなかったのはご愛嬌だろう。
会見に同席していた監督の佐々木洋が苦笑する。

「そこでおまえ泣くかと。何してんだよ……って。
 また、僕らが悪者みたいになるじゃないですか。
 仕向けたとか、操作したとか。
 いや、それにしても本当によく泣きますよね。
 しかも余計なときに(笑)」  

 ~人兄弟のなかで、雄星だけに与えられた特権~

菊池がいちばん初めに泣いたのは、1991年6月17日、
岩手県盛岡市にある病院のとある一室だった。
体重は4185gもあった。

北斗七星からとった長男の雄斗、
南十字星からとった長女の美南にならい、
菊池にも宇宙にちなんだ名前がつけられた。
それが雄星という名だった。
ちなみに3歳下の妹は星花だ。
『銀河鉄道の夜』で知られる作家、宮沢賢治の故郷にふさわしい、
透明感と強さを兼ね備えた名前だった。

菊池が生まれもった気質を徐々にのぞかせ始めたのは、
1歳になったばかりのころだった。
母の加寿子が思い出す。

「まだ真っ暗な時間にハイハイをしてきて、
 外に連れてけって髪の毛を引っ張ったりする。
 だから朝の3時とか4時にベビーカーで近くの公園を散歩していたんです。
 あのころは毎日もうへろへろでしたね」

菊池家では、そんな菊池を「野放し」にして育てたのだという。
3番目の子どもで少し大らかになっていたのもある。
無論、男の子だということもあった。
そして何より、菊池に限っては、
それがしてあげられることのうちで最高のことだと思った。
加寿子が語る。

「小さいときからとにかく目立ちたがりで、かわいらしくて、
 見ているだけで楽しかった。
 好奇心が旺盛なので、今日は何をしてくれるのかなって
 ワクワクしているような感じでしたね。
 動物が大好きでしたから小岩井農場なんかへ行くと、
 羊をずーっと眺めていたり。
 4人のなかでも、いちばんおしゃべりでしたし。
 そういったのびのびとした感性をそのままにしてやりたかった。
 だから、細かいことで怒るのはやめようって。
 そもそも腕白な反面、考えはしっかりしていましたから、
 怒る材料もなかったですしね」

(続きは Number743号 で)






【筆者プロフィール 中村計氏】

1973年千葉県出身。
ノンフィクションライター。某スポーツ紙を経て独立。
『Number』(文藝春秋)、『スポルティーバ』(集英社)などで執筆。
『甲子園が割れた日 松井秀喜の5連続敬遠の真実』(新潮社)で
第18回(2007年度)ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。
他に『佐賀北の夏』(ヴィレッジブックス)、
共著に『早実vs.駒大苫小牧』(朝日新書)などがある。
『雪合戦マガジン』の編集長も務める。
趣味は、落語鑑賞と、バイクと、競艇。
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コメント
この記事へのコメント
こんばんわお邪魔します。

雄星選手の事を詳しく書かれてあって
雄星選手のいろんな事が知る事ができました。
ありがとうございます。

雄星選手の優しさと涙もろさは父親譲りだったんですね。
そして願わくば今度涙を流す時はうれし涙であるといいなと思います。
2009/12/23(Wed) 22:15 | URL  | スポーツ猫 #CwrboUno[ 編集]
スポーツ猫さん、こんばんは。

雄星くんは18歳とは思えないくらい
しっかりした選手で、
この記事も参考になりました。

うちの息子も中学1年生で個性が出てき始め、
接し方も少しずつ変化してきました。
いいと思う所も悪いと思う所も認め、
本人の居心地のいい環境づくりに
協力しているところです。

内気なところは主人に似たようで、
もう少し堂々としていて欲しいな、
というのが母の願いなのですが・・・。
遠慮がちなところが息子の今の欠点です。

雄星くんを見習って欲しいな、と
この記事を載せてみました。
2009/12/26(Sat) 20:53 | URL  | kuni28 #-[ 編集]
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