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ケンカで生まれた一本足打法
2009年07月16日 (木) | 編集 |
宮崎キャンプの宿舎で一本足打法のフォームチェックを行う王。
真夜中の特訓は本塁打が量産するようになってからも続いた 。
  


【7月1日】1962年(昭37)
巨人10-0大洋―。
あの日、雨が降らなかったら
巨人・王貞治一塁手の本塁打世界記録は
生まれなかったかもしれない。
  


川崎球場での大洋-巨人15回戦は、
前日夜半からの雨の影響で試合時間が30分遅れた。
この間を利用して行われた巨人1軍首脳陣による
ミーティングは始まりから殺気立っていた。
大洋、阪神に遅れをとり3位の巨人。
6月30日の大洋14回戦では藤田元司投手が1失点ながら、
打線はわずか1安打で鈴木隆投手に完封負け。
苛立つヘッドコーチの別所毅彦と打撃コーチの荒川博は
つかみ合い寸前の口げんかを繰り広げた。  


「荒川!王だよ、王、何とかしろよあのバッティング。
 3番のアイツが打てないから、ピッチャーが頑張っても
 勝てねぇんだ!」―。
  
「僕は王に三冠王をとらせようと思ってやってるんだ!
 ホームランだけでいいならわけないですよ!
 今日から打たせますよ!」―。
  
「よーし、じゃあそうしてくれよ。ホームラン打ってくれよ
 今日から!」―。
  
「分かりました!今日からホームランだけ行きますよ! 
 しっかり見ててくださいよ!」―。  
  


やぶれかぶれもいいところだった。
61年オフから半年以上。
荒川による王の打撃フォーム改造は、
まだ道半ばもいいところだった。
鈴木に完封された試合で王は2三振。
その夜、王は荒川に
「打席に立つのが怖い」と泣きついた。
だが、別所に“約束”した以上、
荒川は何かをしなければならなくなった。
  


「王、王はどこにいる!」。
荒川が血相を変えて王を探した。
三塁側ベンチの隅っこでぼんやりと座っていた王に荒川は
「とても怖い目つき」(王)で切り出した。
「王、アレで行け。アレで。今日の試合は右足上げて打ってみろ」―。  


左足に重心が乗らず、
上体が突っ込んだままの形で打つクセのあった王。
その矯正にと、荒川と2人で一本足打法に真剣に取り組んでいたが、
一本足にすべてをかけていたわけではなかった。
こんな打ち方もあるかなあ、正直その程度、選択肢の中の1つだった。 
 


王にも確信は全くなかった。  
この年の3月11日、
大阪球場での南海とのオープン戦で意識的に
右足を上げて試してみたが、
それ以来実戦では構えたことすらない。
  
しかし、王もわらをもつかむ心境だった。
打率は2割5分9厘、本塁打はもう1カ月近くなかった。
かなり不安だったが、荒川に言われるまま、
一本足で打席に立つことを決めた。  
  


王は「1番・一塁」で1回表の第1打席に臨んだ。
大洋先発はルーキーながらここまで3勝の右腕・稲川誠投手。
モーションと同時に、左打席の王の右足が
地面から離れ高く上がった。
「何じゃあ。バカにしてんのか」。
稲川は一瞬頭に血が上りながらも、
外角へカーブを放った。
王が反応し、打球は一、二塁間を真っ二つ割って右前へ飛んだ。  
  


2打席目は3回表。また右足が上がった。
「さっきはたまたま。これでどうだ」と稲川が投げたのは
インコースの速球。
王がバットを出すと、打球は満員の右翼席へ一直線の
シーズン10号本塁打。
歴史的な一本足打法による初本塁打。
6回には苦手の左腕・権藤正利投手から中前適時打を放ち、
これで3安打3打点の猛打賞。
  
未完成の打法で結果を出した王は、
目の前から霧が晴れて行くような心境になった。  



今なら「一本足打法登場」とマスコミも大騒ぎしたはずだが、
翌7月2日のスポニチには、
巨人が前夜と打って変わって爆勝したことや王の3安打には触れても、
その打ち方に関しての記事は皆無。
  
一本足打法はこれといって注目もされずに誕生したのだった。  


開幕から3カ月で9本塁打の王は7月だけで10本塁打。
7月29日、甲子園での阪神13回戦で18、19号を
小山正明から放ち、初めて単独で本塁打王争いトップに躍り出た。
ようやくマスコミが騒ぎ出したころ、
  
自信なさげに打席に入っていた王の姿はなく、
シーズン終了までに38本塁打を放ち、
この年初のタイトルとなる本塁打王と打点王(85打点)を獲得した。

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