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革新をもたらした若き指揮官の言葉力 ~渡辺久信×秋山幸二×西村徳文~
2011年03月10日 (木) | 編集 |
若い3人の指揮官が今、注目を集めている。
昨季、混戦のパ・リーグで優勝争いを演じた監督達である。

彼らの戦い方は三者三様だが、
言葉を重視するところに共通項がある。

~新たな時代を担う智将たちは選手の力をいかに引き出すのか~

「パ・リーグの時代」と言われて数年が過ぎた。
そしてその流れは今年も変わりそうにない。
60歳を過ぎた星野仙一が楽天監督に就任し、キャンプ序盤の話題を集めた。
斎藤佑樹が入団した日ハムを率いる57歳の梨田昌孝監督、
そして53歳の岡田彰布・オリックス監督も虎視眈々と
リーグ優勝を狙っている。

しかし昨季終盤、クライマックスシリーズ(CS)を沸かせたのは、
若い監督たちであった。
監督就任初年度のロッテ・西村徳文、
2008年に監督就任1年目で日本一に輝いた西武・渡辺久信、
そして昨季7年ぶりにリーグ制覇を果たしたソフトバンクの秋山幸二。

この3人にはいくつか共通項がある。
現在監督を務めるチームで主軸として活躍し引退後、二軍首脳を経験。
そしてその後、手腕が認められ40代で一軍監督へ抜擢されたことだ。

昔から渡辺は周囲に対しての気配りと洒脱な会話で、
ムード作りが上手だった。一方、真逆な性格だったのが秋山。
寡黙な男で、熟考を重ねた上で行動するタイプだった。
そして西村は決して時の流れに逆らうことのない常識人である。
みな優れた人間性の持ち主であり、硬骨漢だった。

3人が監督に就任した今、二軍時代に育てた選手たちが、
チームの中心として活躍している。
また現役時代ともに戦い、気心が知れた選手たちも多くいる。
果たして新世代の指揮官は彼らにどのような言葉をかけ、
チームを引っ張ってきたのだろうか。
そして混戦を制し、いかにCSへと導いたのだろうか。

~西武・渡辺監督にかけられた一言に涌井は「久しぶりに燃えた」~

昨年、首位を快走していた西武に陰りが見えたのは7月。
大久保博元二軍打撃コーチの解任騒動がきっかけだった。

「理由のいかんを問わず、部下を守ってやれなかったのは自分の責任」

大久保の解任が正式に決まると、
渡辺は自分の非をチーム関係者の前で口にした。
その姿をみてエースの涌井秀章は
「一緒に戦ってくれる人だ」と感じたという。

涌井にとって渡辺は入団時の二軍監督。
「プロで生きていくためには投球スタイルを変えなければいけない」
と忠告され、育てられ、鍛えられた恩人だったということも
影響しているのかもしれない。
渡辺も涌井を信頼し、大切なゲームで起用し続けた。

ソフトバンクに首位を譲った西武はCSでロッテと対戦。
後半戦、調子を落としていた涌井だったが、
渡辺は迷わず初戦の先発に決めた。
「お前がエースだ」。
マウンドに送り出すときに渡辺は涌井に一声かけた。
涌井はこのひと言で久しぶりに燃えたという。

この言葉が支えになり8回1失点の粘りの投球を見せた涌井。
しかしチームが追加点を挙げ勝負を決定付けた時、
渡辺は迷わず抑えのシコースキーをマウンドに送った。

渡辺は日本球界引退後、
言葉が全く通じない台湾プロ野球でコーチ兼任選手として、
3年間プレーしていた。
その時の教訓はただひとつ。
「言葉は通じなくても接し方ひとつで必ず気持ちは通じる」だった。
渡辺にも「外国人選手」の経験があるのだ。

~「どんな些細なことでも自分の言葉で語っていく」(渡辺)~

そのためだろうか。
'08年、日本一になった時も「短期決戦で外国人の抑えは信用するな」
という球界の常識を意に介さずグラマンを積極的に起用した。
「KILL OR BE KILLED(やるか、やられるか)」と言いながら
肩を叩いてグラマンをマウンドに送り出していたという。

「外国人だからと特別視したくなかった」
という強い思いで優勝を決めるマウンドを託した渡辺。
その信念は揺らぐことなく、
昨年のCS初戦も迷いなくシコースキーを投入した。
しかし結果はまさかの3連打4失点。
延長戦の末に星を落とし、続く第2戦にも敗れ、
西武はCS第1ステージで姿を消した。
渡辺はロッテに敗れた後、これまでを振り返ってこう話した。

「今思うと二軍監督を経験してわかったことがある。
 わかっているだろう、では通用しない。
 言葉にして気持ちで相手に伝えるか、理詰めで相手に伝えるのか、
 どちらかを選択しないといけない。
 就任1年目は、恥も外聞もなく
 『やらないで失敗するなら、やって失敗したほうが次につながる』
 という思いで選手に伝えていた。それを思い出さなければ」

新燃岳の火山灰が降るキャンプ地・宮崎県南郷。
就任4年目を迎えた渡辺は、
初心に戻ってどんな些細なことでも自分の言葉で語っていく、
と今季の抱負を語ってくれた。

~秋山監督の現役時代を知る選手たちが支えるソフトバンク~

ソフトバンクの7年ぶりのリーグ制覇は、大逆転劇だった。
残り6試合で3.5ゲーム差をひっくり返したのである。

監督就任3年目の秋山幸二は寡黙な指揮官だ。
チームを率いるにあたり言葉で伝えるのではなく、
自ら率先して行動で示したほうが良いと決めた。
それは現役時代も同じだった。

'99年、王ホークス初優勝の時、松坂大輔から顔面に死球を受け骨折。
それでも監督に言われるまま、主将として大阪遠征に帯同し、
背中でチームをまとめたことがあった。
当時を知るベテランが現主将の小久保裕紀であり、松中信彦である。
秋山の背中を見ていた選手が、今のソフトバンクを支えているのだ。

西武のマジックが「4」になり、迎えた9月18日、
本拠地での西武3連戦。
第1戦、3点差の6回裏、1死二、三塁の場面で秋山は珍しく松中を呼び寄せた。
2球続けて内角球が来ると予想した秋山は
「なめられてるな。もう1球来るぞ」。
それに反応し待ってましたとばかりに打った同点スリーラン。
試合後、秋山は
「状況が分かっているベテランには言いたくなかったが……」と
少しテレていた。
三冠王を獲った男に対して二軍行きを命じたこともある指揮官の
「なめられてるな」のひと言で、
松中の意地が爆発した瞬間だった。

延長戦のイヤなムードを払拭したのも、
やはり秋山の背中を見て野球人生を歩んできた小久保の決勝ホームランだった。
この試合、3年ぶりとなるバントも決めている。
まさになりふり構わず掴んだ初戦の勝利だった。
実は3連戦の前、秋山は小久保に声をかけている。

~寡黙な男・秋山が土壇場でベテランたちにかけた言葉~

「主将であるお前を4番から外さない」

小久保を発奮させたのはこのひと言ではなかっただろうか。
打率2割7分9厘、ホームラン15本は4番として優れた数字ではない。
首を痛め左肩痛に悩まされ、一時は引退まで考えた4番打者。
その男に「4番を外さない」。
このひと言は「やれることを全部やる」
という気持ちにさせるには十分な言葉だった。

ソフトバンクのマジックが「2」となって迎えた9月25日の日ハム戦。
先発を任されたのは杉内俊哉。
4試合勝ち星がなく前回登板の西武戦でもふがいない投球で降板していた。
調子がいいとは言い難い。
そのうえ相手ピッチャーは難攻不落のダルビッシュ有。
不利が予想される戦いを前に秋山は、
「ゲタを預ける」と高山郁夫コーチを通じて杉内に伝えたのだった。

「登板日2日前に投げ込みを行なったり、
 やるべきことを全部やっているという報告をうけていたから。
 もう杉内に任せるしかないと思った」

その秋山の「意気」に答えた杉内。
ダルビッシュを相手に1対0の完封勝利を挙げた。

ソフトバンクは攝津正らを擁し、12球団随一の中継ぎ、抑え陣を誇る。
しかし秋山は
「任せると言ったのだから杉内に任せるしかない」
と大事な試合の前に覚悟を決めたのだった。

試合後、杉内はインタビューで人目をはばからず涙を見せていた。
それは責任を果たせた安堵の涙だったのかもしれない。
背中でチームを引っ張ってきた秋山が土壇場で掛けたベテラン達への言葉。
忘れかけていた勝利への執念に火をつけたのはその言葉だった。

~CSの敗因は「言わなくてもわかってくれる」と考えたこと!?~

キャンプ地がある宮崎・生目(いきめ)の杜。
センターポールで翻るリーグ優勝のチャンピオンフラッグを見て
笑いながら秋山は言った。
「火山灰が降ってきて、二度もスタジャンを洗濯に出すことになった」。
そして少し間を置いて付け加えた、
「あの旗じゃ、駄目なんだよ」。

日本シリーズまであと1勝に迫りながら勝ち越せなかったのは
「長い間、一緒に戦ってきているから、
 こちらが余計なことを言わなくてもわかってくれる」と考え、
CSでは選手たちにあえて声をかけなかった点にあるのではないか。
CSでは小久保が22打数4安打、松中は18打数3安打、
杉内は2敗とロッテに抑え込まれている。
秋山のかけた発奮の言葉は再度の確認が必要だったのである。

~バレンタイン前監督と対照的なロッテ・西村監督~

ひとつ負ければシーズン終了、という状況から勝ち進み、
日本一に輝いたロッテ。
監督の西村は二軍監督の経験こそないものの、
二軍コーチ、一軍ヘッドコーチの経験を持つロッテの生え抜きである。

帽子のひさしの裏には「信は力なり」という
伏見工高ラグビー部総監督・山口良治の言葉が書き込まれている。
まさにコーチ、選手を信頼し勝ち取った栄光だった。

「いくらチームのためと思って発言しても
バレンタインは全く聞き入れてくれなかった。
だから自分が監督になった時、
コーチには思い切って発言してもらおうと思った」

選手とも同じ目線で会話をしようと決めていた。
メジャー帰りの井口資仁、選手会長のサブロー、
チームリーダーの西岡剛とはシーズン中でも常に会話することを心掛けた。

特に西岡だ。
バレンタイン時代には打順が固定されていなかった男を主将に指名し、
その時にひと言添えた。

「1番に固定する。全試合に出場してナインを引っ張ってくれ」

西岡にとってその言葉がどれだけ励みになっただろうか。
日本シリーズ第7戦前にも西村は
「ここまで引っ張ってくれたのだから、
日本一を手土産に胸を張ってメジャーにいったらどうだ」
と話しかけている。

~「戦いの場で余計な言葉はいらない。普段の会話が重要だ」(西村)~

西村が対話を重視する理由はもうひとつあった。
チームにとって一番怖いのが「不満分子」が増えること。
西村は「不満分子は必ず一人でいない。仲間を引き入れる」と言う。
井口とチーム状況を話し合い、
不満分子を増やさないための相談をしていたのである。

終盤の苦しい展開の中、サブローは肉離れをおしての出場だった。
その時、サブローは西村に
「守備に就かせて欲しい。そうしたら指名打者で福浦和也が使えます」
と直訴した。
答えは「やってくれるか。チームのためだ」だった。
「監督は直接意見を言える雰囲気を作ってくれたし、
 あのひと言で自分がやるんだと決意した」
とサブローは語った。

残り3試合となった、9月28日の楽天戦。
今季初めてサブローを4番に据えた。

「任せたと言うけれど、選手にあれこれ言わなかった。
 戦いの場では余計な言葉はいらないと思ってます。
 それよりも普段の会話が重要だと思います」

そのサブローが楽天戦で2ランホームランを放ち、
土壇場での3位進出の原動力になったのだ。

~荻野貴司は西村の言葉に感謝し、コンバートに同意~

下克上を果たして日本一になった石垣島のロッテキャンプ。
西岡の抜けたショートを荻野貴司が守っている。
西村は「序盤の快進撃は間違いなく荻野のおかげ」と明言する。
昨年、荻野が膝の半月板損傷で戦列を離れた時には
戦力ダウンを嘆くどころか
「選手生命に関わる。完治するまで無理するな」と言った。

「チームよりも僕のことを考えてくれている。
 この監督を信じようと思った」と荻野も感謝し、
コンバートに同意している。


'11年のペナントも激しい戦いが予想される。
西武の渡辺は「寛容力」で主力を惹きつけ、
ソフトバンクの秋山はベテランの尻を叩きながら
プライドをくすぐる言葉で奮起を促し、
ロッテの西村は普段の対話を重視し和を尊んできた。
今年はどのチームの監督がどんな言葉で鼓舞するのか。
その興味は尽きない。



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