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一流選手や監督による言葉の力と、叱る極意~巨人軍再建を支えた「叱る技術」~
2011年01月23日 (日) | 編集 |
             文=本城雅人

34歳でラグビー日本代表監督に就任した平尾誠二氏に、
監督になって最初にしたことは何かと尋ねたことがある。

平尾氏の答えは
「選手と一緒に食事を取らないようにしたことです」。

昨日まで仲良くしていたのが突然、距離を置く。
選手は平尾氏の急変を不満に思っただろうが、
ラグビーという競技は監督はスタンドから試合を観戦しなくてはならない。
よって試合前、
ハーフタイムにいかに的確に指示を出すかが大事になる。

「日常会話に慣れてしまうと、
 監督の一言が選手の耳に残らなくなるんです。
 試合中に選手の頭の中に自分の声が呼び起こされるか。
 たった数分のミーティングのために前の晩から眠れなくなります」

平尾氏の説明に言葉とは綿密に計算した筋の中に織り込んだとしても
効果を発揮するとは限らない、
むしろ話すほど薄れていく一瞬の生き物だと理解した。

『こんな言葉で叱られたい』は巨人軍代表の清武英利氏の著書であるが、
球団代表として部下や選手を叱咤したことをまとめた
自叙伝の類に入るものではない。
読売新聞の社会部記者だった著者が、監督やコーチが選手を、
あるいは先輩が後輩を叱るのをそばで聞き、感じた
「言葉の力」をテーマにした一冊である。

~原監督が東野を叱責した言葉に込めた真意~

2009年8月、五勝目を挙げた東野峻だが、
8安打5失点の内容に監督の原辰徳は怒っていた。
記者会見でも東野をやり玉にあげ、さらに本人を呼び
「打たれてもみんなで守っているんだ。
 そんな姿をみんなに見せるな。
 だから、もう一度投げてみろ」と叱責した。
著者は「厳しいもんだなあ」と思わず東野に同情してしまったが、
そばにいたスタッフから
「最後の一言で東野は寝られるんです。また先発しろと言われたんだから」
と監督の真意を教えられ、
前向きに叱って相手を気持ちよくさせるのが叱責の極意だと納得したという。

 
二軍監督の岡崎郁は1対25で大敗した日、選手をベンチに座らせた。

「今日の負けにどう対処するか。方法は二つある。
 もう野球をやめてしまうか。練習して力をつけるか」

西武の守護神だった豊田清は、
FA移籍した巨人では二軍落ちも経験している。
その豊田が同じくファームでもがき苦しんでいる選手に
こう声をかけていた。

「チャンスは準備をしている選手でないと気づかないぞ」

いずれも長々としたフレーズではない。
あらかじめ用意して話したとも思えない。
だがその局面で出た言葉だからこそ耳によく響き、重みがある。
自前の選手が育つようになった巨人の土壌の変化が
これらの言葉からも窺い知れる。

~体の奥までガツンと響く「叱る言葉」が選手を変える~

リーグ四連覇を逸した巨人は今オフ、大補強が予想される。
どこに投資することが常勝球団を作る近道なのか?
これはいつか著者に問うてみたいと思っているが、
よりベターな方法を一つだけと訊けば、
著者は一人の選手に高い年俸を払うより、
他球団に先駆けてマイナー球団を複数作り、
育成選手や他球団を解雇された選手を多く確保することが、
長く安定した強いチームになる、
そう答えるのではないかと勝手に想像している。

そこから第二、第三の山口、松本、星野、オビスポが出てくると
安易に考えていると思っているのではない。
だが、選手が血の通った人である以上、
他では目立たなかった者が、
なにかを拍子に一変した先例はこの世界にはいくらでもある。
本書でも「プロの眼力には限界があることを知った」
という一文が記されている。

それではその拍子となるものは何か?
それこそ魂がこもったパンチの如く、
体の奥までガツンと響く「叱る言葉」である。  



こんな言葉で叱られたい
――常勝巨人を復活させた「叱る技術」――
球団代表として選手育成に注力。
巨人軍第四期黄金時代を支える男が、
原監督、コーチ陣、スタッフ、ベテラン選手の「言葉の力」を明かす
<735円(税込)/清武英利・著>   



【筆者プロフィール 本城雅人氏】

1965年、神奈川県生まれ。
明治学院大学卒業後、新聞社に入社。
スポーツ紙の野球記者、デスクを経て作家に。
2010年、『ノーバディノウズ』で第1回サムライジャパン野球文学賞の大賞受賞。
他に『嗤うエース』『W(ダブル)』など

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