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オリックスの指名に天才打者イチローは戸惑った
2010年11月08日 (月) | 編集 |
あの時、当たりクジが別の封筒に入っていたら、
プロ野球の歴史は変わっていたかもしれない。
1991年のドラフト当時、愛工大名電高監督として
鈴木一朗を指導していた中村豪氏が、入団を希望しながら
中日に指名されなかった失意の天才の姿を回想する。
「ブレーブス」から「ブルーウェーブ」へ。
1991年、オリックスが愛称を変更し、再出発をはかった年のドラフト会議。
オリックスが4位で指名したのが、
愛工大名電高の無名の投手兼外野手、鈴木一朗だった。
そう、現在のイチローである。


愛工大名電高では、春夏合計5回、甲子園に導く。
中村豪氏は、豊田大谷高を経て、現在は吉良高野球部アドバイザー。

「指名を受けたとき、彼は授業を受けてました。
それでコーチがオリックスから指名されたと伝えると、
ずいぶんがっかりしてたみたい。
彼の中ではプロ野球イコール、ドラゴンズだったからね。
後になっていろんな人に
『何でドラゴンズに行かせなかったんや』って言われたけど、
ドラゴンズのスカウトは獲る気なかったな。
『内野ができれば……』って言ってたし。
こっちは、『篠塚二世』になります、
この子の打撃はねちっこくて、柔らかいですよ、
ってアピールしたんだけども。
そのスカウトは、イチローが活躍し始めたあと、
中国担当に配置換えになってしまった。

それで、イチローは順位は気にしてなかったけど、
オリックスということで、嫌だ、大学へ行くって言い出した。
私が当時の日大の監督と仲がよかったから、
獲ってくれるって言ってたんだよな。
でも、それはいかんぞ、って。私も工藤のとき
(公康=名電高在校時、社会人行きを明言するも、
'81年のドラフトで西武から6位指名を受けると一転してプロ入り)に
ゴタゴタして嫌な思いもしたからね。
サッカーのチーム行くわけじゃないんだから行け、って。
必要としてくれてるんやから行くべきだ、と。
で、納得してオリックスに行くわけです」


~「あの時点では、4位という評価は妥当だったと思うよ」~

「ただ、オリックスのスカウトの三輪田(勝利)さんも、
 あそこまでの選手になるとは思ってなかったみたい。
 私も正直、2、3年ファームでやって、
 3割ぐらい打てるバッターになればいいと思っていた程度で、
 あの時点では、4位という評価は妥当だったと思うよ。
 そうそう、あと契約の場で、
 1年目の年俸の提示額が420万だったんだけど、イチローの父親が、
 『シニ』で語呂が悪いと言って、金額を変えてもらったそうだよ」

そもそも、イチローは甲子園を目指してではなく、
プロ野球選手になるために愛工大名電を選んだのだという。

「普通の中学生だったら甲子園だよな。
 でも、彼ら親子は最初から目的が違った。
 その頃、うちは『プロ野球選手養成所』とか言われていて、
 すでに11人のプロ野球選手を輩出していた。
 だからこそ、うちを選んだ。
 私もハッタリで『任せとけ!』って言ったけど、
 入ってきた頃の身長は170センチだよ。
 140キロぐらいのボールを投げて、脚力もあって、
 ミートも抜群だったけど、どうなるかはわからんかった」

~「『センター前ならいつでも打てる』って豪語してた」~

 2年夏に3番打者として甲子園に出て、
 その頃から少しずつ注目されるようになったんかな。
 3年春も甲子園に出たんやけど、そのときは投手も兼ねていた。
 ピッチャーやっとった方がドラフトで指名される確率が高いからな。
 最後の夏は甲子園には出れんかったけど、
 決勝までいって7割近く打った(.643)。
 『センター前ならいつでも打てる』って豪語してた。
 その言葉通り、振りゃ、ヒット。
 三振なんか見たことない。見逃し三振をしたことはある。
 でもそのときも『審判の判定ミスだ』って最後まで認めなかった。
 決勝は東邦高校に負けたんやけど、試合後は、ケロッとしてた。
 やるだけのことはやったんやからと。
 県大会でしっかり成績を残して、
 あとはドラフトにかかればいい、って感じだったな」   
 


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【筆者プロフィール 中村計氏】

1973年千葉県出身。ノンフィクションライター。
某スポーツ紙を経て独立。
『Number』(文藝春秋)、『スポルティーバ』(集英社)などで執筆。
『甲子園が割れた日 松井秀喜の5連続敬遠の真実』(新潮社)で
第18回(2007年度)ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。
他に『佐賀北の夏』(ヴィレッジブックス)、
共著に『早実vs.駒大苫小牧』(朝日新書)などがある。
『雪合戦マガジン』の編集長も務める。
趣味は、落語鑑賞と、バイクと、競艇。

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